1. 変化概念: [変化主体] + BECOME + <結果状態>
人間は「変化」を認識する際、通常は結果状態の方に注目する。したがって、変化概念をことばで表現するときの基本構造は "[変化主体] + BECOME + <結果状態>"となる。 また、変化は時間の経過に従って起こるものであるが、「時」の概念は「空間」のメタファーによって言語化されるため、「変化」は「移動」概念の拡張として表される例も数多くみられる。以下の実例を元に検討していきたい。
91. 彼は病気になった。
→ He {became / got / fell} ill.
[変化主体: He]が <結果状態: ill>に変化したことを表す。BECOMEという意味概念を、そのまま動詞 become(過去形の became)で表現することもできれば、「所有概念」のメタファーで「<結果状態: ill>を得た (got)」と捉えたり、「移動概念」のメタファーで「<結果状態: ill>に落ちた (fell)」と捉えることもできる。
92. いつまでもお若いですね。
→ You never grow old.
grow: 古英語 grōwan「植物が成長する」が由来で、「成長して<結果状態>になる」という意味に加え、「成長」のニュアンスを含まずに単に BECOMEの意味概念を表す場合もある(92も後者の意味で使われている)。
93. 今日は全てが悪い方に行ってしまった。
→ Everything went wrong today.
go: 変化概念が「移動」の拡張で表現されている例。 wrongという結果状態は話し手にとって好ましくない状態であるため、「話し手の意識の中心から離れる」という移動を表す goが用いられている。
94. 私たちの夢(複数)が叶った。
→ Our dreams have come true.
こちらも変化概念が「移動」の拡張で表現されている例であるが、93とは対照的に、好ましい結果状態 trueへの変化は「話し手の意識の中心方向への移動」として捉えられ、 comeによって表現されることとなる。
95. 暗くなってきた。
→ It's getting dark.
「脳内イメージ」として漠然とした周囲の状況を表す itを主語に立て、 darkという結果状態が itの「所有空間」に入り込んできた (is getting)…という所有概念の拡張として表現する。現在進行形は「まさに今(発話時)、変化が進んでいる途中段階である」ということを捉える。
2. 変化概念 (2): <結果状態>を前置詞句で表す例
前回は <結果状態>に形容詞が来る例文(いわゆる SVCの文型)を研究したが、<結果状態>は形容詞以外でも表されうる。とりわけ、「状態変化」を「位置変化」のメタファーによって捉える際には、<結果状態>は「場所」の一種とされ、前置詞句で表される。
96. Ronは Hermioneに恋をした。
→ Ron fell in love with Hermione.
「状態変化」を「位置変化」のメタファーで捉えた典型例。 love (with 相手)という状態が三次元空間的に捉えられ、その内部に落ちる (fall)と見ることで心理上の変化を表している。
97. その花瓶は粉々に砕けた。
→ The vase broke into pieces.
花瓶が壊れて「破片たち (pieces)」という結果状態に変化。intoという前置詞により、その状態の「内部に入り込んでいく」というイメージで捉えられている。
98. ミニスカートが再び流行しだした。
→ The miniskirt has come into fashion again.
流行状態 (fashion)を一種の「場」と捉え、そこにミニスカートが「入ってきた」として表す。Sの the miniskirtは、特定のミニスカートを指しているというわけではなく、話し手と聞き手の脳内で「ミニスカートというもの」が共通にイメージされることから、定冠詞の theが用いられている。(Cf. play the piano)
99. 事態はますます悪くなった。
→ Things turned from bad to worse.
状態変化の「変化前→変化後」を、位置変化の「起点→着点」になぞらえて表現した例。よって、変化前の「起点」となる状態 (bad)が from、変化後の「着点」となる状態 (worse)が toによってそれぞれ導かれている。
100. 私たちの夢の休日は悪夢へと変わった。
→ Our dream holiday turned into a nightmare.
変化概念を表す turnは、目に見える状態変化で、「場面展開」と言えるような際立った変化を表す際に用いられやすい。
3. 変化概念 (3): <結果状態>に名詞句が来る例
今回は「移動概念の拡張」として、移動の結果や想像上の移動が状態を表す例文を研究していこう。
101. 姉/妹は医者になった。
→ My sister became a doctor.
最も基本の形。"My sister is a doctor."が結果状態「〜である」というところに注目しているのに対し、101の文では変化(→結果状態)に焦点が置かれている。
102. 私、もうすぐおばあちゃんになるの。
→ I'm going to be a grandmother soon.
becomeと beの使い分け: 未来のことについては beを用いるのが普通(参考: 『ユースプログレッシブ英和辞典』)。
103. 彼の死は謎のままである。
→ His death remains a mystery.
remain: 変化のないこと(=状態概念)を表す。
104. 晩年、彼女はカトリック教徒になった
→ At the end of her life she turned Catholic..
職業・宗教・政治思想などの変化について述べる時、"turn + 無冠詞名詞 or 形容詞"の形が用いられる場合がある。
105. 彼は英雄として死んだ。
→ He died a hero.
「『英雄 (a hero)』という結果状態の中で死を迎えた」というイメージ。
4. 知覚概念: [知覚主体] + 知覚動詞 + [対象]
知覚概念に関わる表現では、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚という五感の感覚器官が関係する行為や認知が言語化されることになる。ここには、それぞれの感覚器官を意図的にはたらかせるか否か・ある感覚を知覚する主体(主に人間)を中心に捉えるか・ある感覚を発生させる対象を中心に捉えるか…といったポイントに応じて、複数の構文可能性が存在する。今回は、"[知覚主体] + 知覚動詞 + [対象]"の構造で、「感覚器官のはたらきによって(無意識的に)〜を知覚する」タイプの現象を表現する方法を研究する。
106. 庭にたくさんの花が見えた。
→ I saw a lot of flowers in the garden.
自然な日本語では「見えた」のように自発形の動詞が使われ、知覚主体を明示的に言語化することは少ない。しかし英語では知覚主体である「私: I」を忘れずに主語に立てる。また「たくさんの」と言うとき、特に口語の肯定文では、106のように manyよりも a lot ofのほうが好んで使われる。以下の動画参照:
107. 金星 (Venus)が見える
→ I can see Venus.
特にイギリス英語において、"can + 知覚動詞"で「(発話時に)〜が見える・聞こえる etc.」という状況に注目できる。無意識的な知覚は一時性・未完結性を表す進行形にはそぐわないため、*I'm seeing
Venus.のようには言えないので注意を要する。
108. 突然変な物音が聞こえてきた。
→ Suddenly I heard a strange noise.
hear: 聴覚器官の働きにより「〜が聞こえる」。よって 107と同様に進行形にはせず、発話時の知覚に注目するなら can hearで表す。
109.横っ腹に痛みを感じます。
→ I feel (a) pain in {the / my} side.
"[知覚主体: I] + 知覚動詞: feel + [対象: (a) pain]"で文の中心構造を形成し、痛む箇所を「場所概念」として前置詞句 (in {the / my} side)で加える。意外に知らない「横っ腹」は、人体の側面として sideで言える。
110. このクッキーは生姜の味がする。
→ I taste ginger in this cookie.
文構造の考え方は今まで学んできた通りだが、110の日本語から [知覚主体: I]を主語にする発想に慣れること。クッキーの方を主語にして始めるならば This cookie tastes of ginger.となる。
5. 知覚概念 (2): [対象] + 知覚動詞 + <印象>
今回は、"[対象] + 知覚動詞 + <印象>"という構造で知覚概念を表す要領を学んでいこう。
111. 顔色が悪いよ。
→ You look pale.
典型的な "[対象] + 知覚動詞 + <印象>"の文型。学校英文法では SVCと説明されるもので、「Sで表される対象(物・人)が、Cのように {見える・聞こえる・においがする・味がする・触った感じがする}」という意味を表す。
112.このバラ(複数)は良い香りがする。
→ These roses smell sweet.
花の香りの良さについて sweetという形容詞が使われる。
113. このコーヒーは濃い味がする
→ This coffee tastes strong.
日本語では「濃淡」の概念を拡張して「濃い味」と言うが、英語では「強弱」で捉えて strongを用いる。
114. A: 一緒にコーヒーでもいかがですか?ー B: いいですね。
→ A: How about having a cup of coffee together? ー B: Sounds {good / nice}.
Bの発話において、主語として想定されるのは Aの言ったこと (= It)であるが、文脈上明白である上、弱く発音される機能語であるため、口語では 114のように "Sounds~"と言われる場合が多い。
115. この長財布は革のような手触りがする。
→ This wallet feels like leather.
<印象>部分が形容詞の場合は 111~114の例のように直接Cとして形容詞をおけば済むが、名詞を導くためには前置詞が必要であるため、 "feel like 名詞"の形で「[名詞]のような手触りがする」の意味を表す。
6. 知覚概念 (3): 様々な「見え方」
五感による知覚の中でも、人間は視覚情報に特に大きく依存している。したがって言語表現においても、視覚による対象認知を基盤に置き、メタファーにより意味を拡張させていく例が数多く「見られる」。
116. 医者に診てもらった方が良いよ。
→ You {should / have to / need to} see a doctor.
see: 「目で見る」というところから、「会う・面会する」の意味へと拡張している。「〜した方が良い」という相手への提案表現としては、had betterや mustでは命令口調に聞こえるため、現代英語では婉曲的な義務表現として 116のように should, have to, need toが好んで使われる。
117. おっしゃる意味はわかります。
→ I see your point.
"UNDERSTANDING IS SEEING"(「わかる」ことは「見える」こと)というメタファーとしての seeの例。
118. 何かに腹を立てているようだね。
→ You seem angry about something.
seem: 存在→状態概念 "You ARE angry (about something)"をベースに、主観的な判断に基づいて「〜のようだ」という意味を表す。
119. そのバスは満員のようだ。
→ The bus seems to be full.
seemの用法: 補語 (C)の形容詞が程度性を持ち、主観的な印象の意味が強い場合は、"seem + <形容詞>"の構造が普通 (cf. 118)。一方 119の full「満員の」のように、程度性を持たず客観的な意味合いの形容詞(「満員である」か「満員でない」かのどちらかしかない)が来るときは、"seem to be + <形容詞>"の形を用いる。
120. 油圧 (the oil pressure)に問題があるようだ。
→ There {appears / seems} to be a problem with the oil pressure.
appear : 対象の外見から判断して「〜のようだ」という意味を表す。 Seem, appearともに存在→状態概念 (BE)に主観的判断の意味を加えるはたらきを持つので、存在文で用いることが可能。ただし Cに名詞句が来るときは、"{seem/appear} to be + [名詞句]"の構造が普通。
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